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Channel: 閑中俳句日記(別館) -関悦史-
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【十五句抄出】折笠美秋『北里仰臥滴々/呼辭記』

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折笠美秋/寺田澄史編『北里仰臥滴々/呼辭記』2019年10月
鬣の会


 『北里仰臥滴々/呼辭記』は折笠美秋(1934 - 90)著、寺田澄史編集による第4句集。解説:岩片仁次、あとがき:林桂。限定500部。

 

 


盃や無数の詩と友底に居り


新宿にもシャガールの絵の夜空があり


風あれば風と化し来る春の妻


新緑を一枚妻に盗ませる


蔦青くあり人の世に帰り道


麵麭屋まで二百歩 銀河へは七歩


我れ死なば青紫蘇一枚揺れおらむ


「母」の字に最も近きが「舟」よ月明


枯草の茎ほの青し折れたるも


春始まる山脈の襞すみれ色

 

土砂降りの中でも
友か

止まないぞ

 

石上三年
石下は永遠や

霙來る

 

近景に

遠景に
海荒れる

 

鬼と化し
人と化し
止まずの
風と化す

 

花失せて
翁に歸る
櫻かな

 

 

 


※本書は版元より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 


【雑録】このひと月くらいに読んだ本の書影 Part79

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 11月3日、眉村卓死去。言葉もない。

 平敷武蕉『修羅と豊饒―沖縄文学の深層を照らす』、たなかあきみつ『静かなるもののざわめき P・S―アンフォルム群Ⅱ』は著者または版元から寄贈いただきました。記して感謝します。

 

 

眉村卓『白い小箱』眉村卓『白い小箱』角川文庫・1983年
《不安やいらだちを、甘い女性の声で和らげ、良い気持ちにさせてくれる魔法の小箱。こんな素敵な宝物を手にして男は、さっそく、その声がささやく通りに行動しはじめた。
 上司の反発にも、勇気をもって反抗せよ……女の子にも大胆に振るまって……etc etc。しかし、その彼を待ち受けている運命とは……?
 大都会に住む孤独な人間たちの姿をSF手法で見事に描ききった秀作集。》

収録作品=走馬灯/執筆許可証/自動化都市/厄介者/出て下さい/おお、マイホーム/彼をたずねて……/待っていた奴/白い小箱/遠慮のない町/迷路の町

 

 


眉村卓『ポケットのABC』眉村卓『ポケットのABC』角川文庫・1982年
《「何だ、あれ」
ぼくは身体を乗り出して、新幹線の車窓のかなたをみつめた。集落の、とある家に、洗濯されて干してあるシャツの一枚ごとに、背番号のように文字が書かれていたのだ。読むと、……タスケテクレ……となる。が、ぎくりとした瞬間、文字は消えてしまった。さてその結末は……。
        「タスケテクレ」より
 奇妙な話、耳よりな話、恐ろしい話愉快な話、ふざけた話、迷走する話etc……。眉村卓の、SFショート・ショート満載。「ポケットのXYZ」の姉妹編。》

収録作品=ひとり遊び/お相手/AとBとCの話/どこかで聞いたような話/終電車/ロボットのたたかい/見えないたたかい/最高刑/深夜のできごと/復元映画/色即是空/テリカさん/進路指導/マイ・タイムマシン① 試用/マイ・タイムマシン② 講義(一)/マイ・タイムマシン③ 拾い物/マイ・タイムマシン④ 講義(二)/隣りの紳士/賭けの天才/彼女の手紙/速読術/タスケテクレ/ある日記/観察対象/最終テスト/実験開始/大秀才/スーパー・スター/イガロス・モンゴルベエ・ヤイト/Vさんのファンと/テスト機/特技/講義の相手/ノートの男/事情があります/友人を作る会/対面/アルバイト その1/アルバイト その2/アルバイト その3/アルバイト その4

 


眉村卓『ポケットのXYZ』b眉村卓『ポケットのXYZ』角川文庫・1982年
《仕事を済ませ、オフィスを出ようとしたときにあらわれたひとりの男。 そいつは以前、私の部下として入ってきた新入社員で、仕事で自信喪失したあげく、自殺してしまったはずの男なのだ。
 「幽霊!」
 そいつは、ぼくを見つめていたが、やがてかぼそい声を出した……。
       「あわれっぽい話」より
 珍妙な話、不可思議な話、楽しい話、極端な話……眉村卓の、SFショート・ショート満載。「ポケットのABC」の姉妹編。》

収録作品=あわれっぽい話/類型的な話/アホらしい話/ひまつぶしの話/災難 A/災難 B/災難 C/災難 D/番号札/番号時代/番号と名前/番号魔にして数字占い/どこかにありそうな話/ミスター哲学者/電話の反応/今週の賞/走る (1)/走る (2)/走る (3)/走る (4)/新年宴会/酒癖/立食パーティ/ローパーよりの報告/逃げる話/かなえてあげよう/そいつ/追跡と逃走/人生設計/運命のいたずら/仕事場にて/ピッカピカ その(一)/ピッカピカ その(二)/ピッカピカ その(三)/ピッカピカ その(四)/ピッカピカ その(五)/るんるんの(A)/るんるんの(B)/るんるんの(C)/るんるんの(D)/踊るユウレイ/踊る探検隊

 

 


陳舜臣『中国任侠伝』陳舜臣『中国任侠伝』文春文庫・1975年
《中国の生んだ豪傑、英雄、美女、悪女、そのスケールはいずれも限りなく大きい。『史記』その他の中国古典に材を得て、その広大無辺のエネルギーそのままに、波乱万丈の豪傑譚が展開する。他人のために自らを顧みない行為である“任侠”の道に、生涯を賭けた豪傑たちが縦横無尽に活躍する血沸き肉躍る武侠小説。》

 

 

 

 

 

 


平敷武蕉『修羅と豊饒―沖縄文学の深層を照らす』平敷武蕉『修羅と豊饒―沖縄文学の深層を照らす』コールサック社・2019年
《平敷氏の批評する姿勢は、たとえ大家であっても新人であっても決して手を緩めることなく作品に向きあって、沖縄文学の優れた試みであるか否かを内面に問いながら記述していく、純粋な批評精神に貫かれている。(鈴木比佐雄「解説」より)》

 

 

 

 

 

 


ブラッドベリ『十月の旅人』レイ・ブラッドベリ『十月の旅人』新潮文庫・1987年
《ノスタルジアと残酷、無邪気な童心と突加訪れる狂気――宇宙時代の散文詩人レイ・ブラッドベリの初期作品群から傑作のみを精選。妻への不信と愛への渇望に引き裂かれた男の惨劇「十月のゲーム」。何でも所有者の望む役割を果たす不可思議な装置「ドゥーダッド」。小惑星に不時着した男にしのび寄る不条理な恐怖「夢魔」。甘美で、そして冷たい詩情漂う10の佳編を収めた純文学風SF短編集。》

収録作品=十月のゲーム/休日/対象/永遠と地球/昼さがりの死/灰の怒り/過ぎ去りし日々/ドゥーダッド/夢魔/すると岩が叫んだ

 

 


ロレンゼン『UFO―目撃者の証言』コーラル・ロレンゼン、ジム・ロレンゼン『UFO―目撃者の証言』角川文庫・1975年
《UFOとは写真のトリックなのか? それとも乱気流によるたんなる気象現象に過ぎないのか? あるいは、宇宙人の乗る空飛ぶ円盤なのか?
 1878年1月、アメリカの新聞「デーリー・ニュース」がUFO目撃の事実をはじめて報道して以来、年々目撃者の報告は増え、近年、わが国においてもこの問題に対する関心はとみに高まりつつある。しかし、数多くの目撃者の証言が報告される一方では、あきらかに誤認、誤報と思われるものも少なくない。
 本書は、UFO研究の権威である著者夫妻が、これらの証言、報道を分析して、敢然とUFOの謎に挑んだ好著である。19世紀末から今日に至るまでの目撃報告の膨大なデータを集め、整理、検討した本書は、広くUFO現象を考察する上でも責重なものとなろう。》

 


石原藤夫『SFロボット学入門』石原藤夫『SFロボット学入門』ハヤカワ文庫・1981年
《SFの世界の数多くの住人たち――異星人、エスパー、未来人、そして、ロボット。 ロボットは、「ゴーレム伝説」に見られるように、SFがまだSFの形をとっていなかった神話伝承の時代から文芸作品に登場し、すでに確固たる登場人物の地位を確立している。一方、テクノロジーの進歩と発展は、空想上の産物にすぎなかったロボットを、現実の世界につくりだした。本書は、科学的な側面からロボットの原理、可能性をさまざまなデータを駆使して解説しつつ、小説ばかりでなく映画、演劇などの中での活躍ぶりをあますところなく伝える好書である。》

 

 

 


橋爪大三郎・大澤真幸『ゆかいな仏教』橋爪大三郎・大澤真幸『ゆかいな仏教』サンガ新書・2013年
《葬式仏教と揶揄されたり、「禅問答」のように、やたら難解なイメージがつきまとったりの、日本の仏教。もともとの仏教はでも、自分の頭で考え、行動し、道を切り拓いていく、合理的で、前向きで、とても自由な宗教だった!
日本を代表する二人の社会学者が、ジャズさながらに、 抜群のコンビネーションで縦横に論じ合う、仏教の真実の姿。
日本人の精神に多大な影響を与えてきた仏教を知れば、混迷のいまを生きるわれわれの、有力な道しるべが手に入る!》

 

 

 

 


小塩節『トーマス・マンとドイツの時代』小塩節『トーマス・マンとドイツの時代』中公新書・1992年
《ドイツが世界を震撼させ続けた十九世紀後半から二十世紀前半を生き、「世界にかくも良きもの美しきものを与えた」のに、「再三再四かくも宿命的に世界の厄介者となったこの民族の性格と運命にひそむ謎」とはいったい何かと世に問うたドイツの代表的作家トーマス・マン。すぐれた論理的思考と、ロマン主義的愛国心が同居する矛盾というドイツ民族の悲劇性を自らのうちにみつめた作家を通して「ドイツの時代」の社会と文化の特徴を語る。》

 

 

 

 


丸谷才一選『花柳小説名作選』丸谷才一選『花柳小説名作選』集英社文庫・1980年

収録作品=あぢさゐ(永井荷風)/その魚(吉行淳之介)/いろをとこ(里見弴)/童謡(川端康成)/継三味線(泉鏡花)/黒髪(大岡昇平)/戦時風景(徳田秋声)/梅龍の話(小山内薫)/四つの袖(岡鬼太郎)/雪解(永井荷風)/堀江まきの破壊(舟橋聖一)/そめちがへ(森鷗外)/なぎの葉考(野口富士男)/橋づくし(三島由紀夫)/海面(丹羽文雄)/名妓(中山義秀)/老妓抄(岡本かの子)/牡丹の客(永井荷風)/〈対談解説〉野口富士男・丸谷才一

 

 

 

 


牟田口義郎『物語 中東の歴史―オリエント五〇〇〇年の光芒』牟田口義郎『物語 中東の歴史―オリエント五〇〇〇年の光芒』中公新書・2001年
《キリストを生みムハンマドを生んだ中東は、歴史上の転換点となった数々の事件の舞台であり、まさに世界の富と知の中心だった。ソロモン王とシバの女王の知恵くらべ。新興イスラーム勢力のペルシア帝国への挑戦と勝利。ムスリム商人による商業の隆盛と都市文化の繁栄。「蛮族」十字軍や、モンゴル帝国による進攻とその撃退。しかし、やがて地中海世界は衰退し、中東は帝国主義の蹂躙する所となる…。ドラマティックな歴史をたどろう。》

 

 

 

 


山田風太郎『妖異金瓶梅』山田風太郎『妖異金瓶梅』角川文庫・1981年
《囚人の指、腕、足の関節、さいごに頸を斧で切り落とす「冎の刑」。この残忍な処刑見物の直後、県下随一の豪商西門家に奇怪な事件が起きた。
 当上西門慶には多勢の夫人がいたが、第七夫人と第八夫人が、それぞれの部屋で両足を切断されて死んでいたのだ。邸内はたちまち峰の巣をつついたような大混乱に陥った。事件後に失踪した門番の男に疑いが集中していたが、西門慶の悪友、たいこもちの応伯爵は、この血なまぐさい事件に遭遇して、唯一人冷静に独特の推理を展開した……。
 中国文学の金字塔に、著者が敢然と新解釈を挑んだ意欲的長編!》

 

 


山田風太郎『忍法忠臣蔵』山田風太郎『忍法忠臣蔵』角川文庫・1983年
《唐紙が音もなく開き、しずしずと御寝所に入ってきた白無垢衣装の処女。だが次の瞬間、好色な将軍綱吉の顔が恐怖に歪んだ。なまめかしい女体が血しぶきを上げて引き裂かれ、たちまち血まみれの肉塊と化したのだ!
 自分の愛を裏切り、大奥へ上がった女を惨殺した伊賀忍者無明綱太郎は、江戸から米沢へ逃げた。上杉家城代家老千坂兵部にかくまわれた彼は、身の安全と引き換えに重大な密命を受けた。想像を絶したその任務とは……?
 赤穂浪士討入りの蔭に暗躍する伊賀忍者と能登忍者の熾烈な戦いを描く、山田風太郎の傑作忍法帖。》

 

 

 


宮本常一『空からの民俗学』宮本常一『空からの民俗学』岩波現代文庫・2001年
《空から見下ろす地上の風景は無限の夢をさそう―旅の巨人・宮本常一はいつもカメラを携行し、残されたネガは八万枚に及んだという。開発の進む日本列島を俯瞰し、物干しにかかった洗濯物に日本人の生活の変化を鋭く読みとるとき、なにげない一枚の写真が見事な時代の証言となる。本書は、その独特の写真解読術のすべてを集成した未収録エッセイ集。》

 

 

 

 

 


東野芳明編『芸術のすすめ―学問のすすめ22』東野芳明編『芸術のすすめ―学問のすすめ22』筑摩書房・1972年
《混迷する現代芸術を大胆に展望する!
執筆者――東野芳明、大岡信、山口勝弘、秋山邦晴、槇文彦、磯崎新、中原佑介、関根伸夫、原広司、粟津潔、羽仁進、武満徹》

 

 

 

 

 

 

 


清河八郎/小山松勝一郎校注『西遊草』清河八郎/小山松勝一郎校注『西遊草』岩波文庫・1993年
《幕末の尊攘派の志士清河八郎は山形庄内の素封家の生まれで俊秀の儒学者。安政二年の半年間,母を連れて善光寺から名古屋に出て、伊勢参りを果たし、さらに関西、四国、中国を回り、江戸を経由して帰るという大旅行をする。本書は、旅の宿で毎夜欠かさず記した旅日記で、当時の旅の実際,各地の風俗を細かに綴って極めて興味深い。》

 

 

 

 

 


森村誠一『虚構の空路』森村誠一『虚構の空路』角川文庫・1976年
《小田原付近を通過中のひかり号車内で、検札の車掌が若い女の死体を発見! 死因は青酸中毒で、目撃者の証言から、東京駅発車寸前に降りた男の犯行との見方が強まった。そして三か月後、こんどは都内のホテルで男の刺殺体が。
 二つの事件の重大な共通点が捜査本部を緊張させた。被害者は二人とも同じ会社の社員だったのだ。ただちに綿密な聞き込みが行われ、その結果、ある海外旅行社の営業部長が重要容疑者として浮かび上がった。だが彼には、両事件ともに完璧なアリバイがあった。
 巧みなストーリィの展開と意表をつくトリック、著者会心の本格長編推理小説。》

 

 


柄谷行人『柄谷行人書評集』柄谷行人『柄谷行人書評集』読書人・2017年
《12年分の新聞書評を漏らさず収録! 絶版の文庫解説付!
文芸評論家デビュー前に執筆された「小説家としてのダレル」(『英語研究』1969年4月号)だけでなく、「反ロマネスク・ヘミングウェイ」(石一郎編『ヘミングウェイの世界』1970年)や、武田泰淳『わが子キリスト』、大岡昇平『野火』、後藤明生『パンのみにあらず』、吉本隆明『改訂新版 言語にとって美とはなにか』といった絶版になった文庫解説、江藤淳、大岡昇平、坂口安吾らの全集解説ほか、現在まで著者単行本未収録の「書評/論文」をあまさず収録。柄谷氏が1970年に『日本読書新聞』に連載していた「方位‘70」(4回分)も収録。1960年代~70年代の多くの論考は、今回新たに発掘されたものが多い。現在ではほぼ目にすることができない貴重な論文である。加えて、文庫・全集解説として執筆された論文は、400字詰め20枚~30枚に及ぶものばかりであり、一本の「文芸批評作品」として読むことが可能である。》

 


山手樹一郎『たのまれ源八(一)』山手樹一郎『たのまれ源八(一)』春陽堂・1978年
《いやらしい例えだが、一人前の成人だったら、男は女をみて、そとづらの清楚さは別として、ごく人間らしい関心から、その裸の姿を想像してみることもおありだろう。動物としての人間の愛欲の心の動きを正直にとらえることができたら、それは醜怪ではあっても、やはり真実なのだ。それを、のぞくことができたら?
 山手文学の主人公はいつも陽性で、本編もまた主筋は知恵あり、剣に強い無類の博愛主義ゆえたのまれ源八と愛称される南堂源八と、三州西尾藩のお家騒動に対決するお話だが、彼らのおおらかさを際立たせるのは、徹底した悪の妖女ともいうべき青松院お松の方を設定したことにあろう。彼女の心の多淫な動きこそ、実は男女を問わない“性の業”ともいうべき哀しさがあり、逆に正義の人々の朗らかさは最後まで輝く。――発表時の「たのまれ源八」「源八邪淫の精」と、その後日譚「源八愛慾の川」の長編作を二巻に収める節制のきいたお色気充分の大長編!》

 


山手樹一郎『たのまれ源八(二)』山手樹一郎『たのまれ源八(二)』春陽堂・1978年
《いやらしい例えだが、一人前の成人だったら、男は女をみて、そとづらの清楚さは別として、ごく人間らしい関心から、その裸の姿を想像してみることもおありだろう。動物としての人間の愛欲の心の動きを正直にとらえることができたら、それは醜怪ではあっても、やはり真実なのだ。それを、のぞくことができたら?
 山手文学の主人公はいつも陽性で、本編もまた主筋は知恵あり、剣に強い無類の博愛主義ゆえたのまれ源八と愛称される南堂源八と、三州西尾藩のお家騒動に対決するお話だが、彼らのおおらかさを際立たせるのは、徹底した悪の妖女ともいうべき青松院お松の方を設定したことにあろう。彼女の心の多淫な動きこそ、実は男女を問わない“性の業”ともいうべき哀しさがあり、逆に正義の人々の朗らかさは最後まで輝く。――発表時の「たのまれ源八」「源八邪淫の精」と、その後日譚「源八愛慾の川」の長編作を二巻に収める節制のきいたお色気充分の大長編!》

 


クレマン『垂直の声―プロソポペイア試論』ブリュノ・クレマン『垂直の声―プロソポペイア試論』水声社・2016年
《このように語っているのは誰なのか

レトリックの一つ、プロソポペイアに光を当てた、詩学も軸にすえた独自の方法論による、修辞学の脱構築!
国際哲学コレージュで院長をつとめた著者が、不在のものの「声」という、<思考のフィギュール>に迫る!》

 

 

 

 

 

 


パステルナーク『初期1912‐1914―あるいは処女詩集から』ボリース・パステルナーク『初期1912‐1914―あるいは処女詩集から』未知谷・2002年
《詩人は泣く、詩の中で慟哭する。それは、宇宙が泣くということ、つまり、人の内なる魂が泣いているということだ――

二月のモスクワ、一番の凍寒が緩み始める二月の半ば、そのあとにやって来るのはいよいよ春なのである。三月ともなれば、本当の春が待ち遠しくて人々は気が狂いそうになる。パステルナークは、狂おしい程の雪解けの自然力と詩の出来上がるのを一つのことのように捉えて詩作する。
『初期 1912―1914』は宇宙の響=人間の生の意味を探る詩人の鮮烈なデビュー作といえる。》

 

 

 


パステルナーク『バリエール越え 1914‐1916』ボリース・パステルナーク『バリエール越え 1914‐1916』未知谷・2002年
《ウラルの恋、ウクライナの恋、そしてドイツの恋。
異性への愛、その具体性を超え、情熱を自然へ宇宙へと転化させ、木々や星、風や花々、雷雨や雪、自然の事物や現象をロシアアヴァンギャルドの絵画性で描写した第二詩集。》

 

 

 

 

 

 

 


パステルナーク『晴れよう時 1956‐1959』ボリース・パステルナーク『晴れよう時 1956‐1959』未知谷・2004年
《雨つづきの日々が終はりに近づき
雲間に空の青さが現れだす頃
決壊箇所の晴れ間は何といふ華やぎ
草地は何と祝祭気分に満ちてゐることか

別荘地で隠遁者のように暮らす晩年の詩人は
身近な自然や天候、移ろいゆく心境を静かにうたう
どの一篇一篇もみな失われていく〈時〉の墓碑銘であった》

 

 

 

 


山内志朗『普遍論争―近代の源流としての』山内志朗『普遍論争―近代の源流としての』平凡社ライブラリー・2008年
《中世哲学は、なぜ、トリビアルな問題の集積と見られがちだったのか? この謎を解く鍵が「普遍論争」である。「はたして普遍は存在するのか?」というこの単純な問いをめぐる一見煩瑣な論理をていねいに読み解くことにより、本書は、中世哲学のもつ豊穣な可能性を描き出す。哲学入門としても最適の一冊。》

 

 

 

 

 


たなかあきみつ『静かなるもののざわめき P・S―アンフォルム群Ⅱ』たなかあきみつ『静かなるもののざわめき P・S―アンフォルム群Ⅱ』七月堂・2019年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』角川書店・2019年
《人類に残された最後の超難問、ABC予想に挑む!
人類に残された超難問、ABC予想の解決をも含むとするIUT(宇宙際タイヒミュラー)理論。
京都大学の望月新一教授によって構築された論文は、「未来から来た論文」と称されるなど、数学界のみならず、世界に衝撃をもたらした。

この論文は、世界で理解できるのは多く見積もっても数人、といわれるほどの難解さであり、
論文の発表から6年以上たった現在もなおアクセプトに至っていないが、望月教授と、議論と親交を重ねてきた著者は、
IUT理論は数学者ではない一般の人たちにもわかってもらえるような自然な考え方に根ざしていると考える。

本書では、理論のエッセンスを一般の読者に向けてわかりやすく紹介。その斬新さと独創性を体感できる。
理論の提唱者である望月新一教授の特別寄稿も収録!》

 

 

 

 

 

 

 

 

【十五句抄出】筒井祥文川柳句集『座る祥文・立つ祥文』

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筒井祥文『川柳句集 座る祥文・立つ祥文』2019年12月
私家版


 『座る祥文・立つ祥文』は川柳作家筒井祥文(1952 - 2019)の遺句集。樋口由紀子編。

 


ウミネコが群れる日付のない日記


弁当を砂漠へ取りに行ったまま


老人が違う光の中にいる


木で暮らす男の知恵を借りにゆく


天国の破片は出土しましたか


どこで口説こう空中ブランコの女


ご公儀へ一万匹の鱏連れて


あり余る時間が亀を亀にした


天高く警察官を浪費する


帽子屋はギリシャ上空まで飛んだ


仏壇の奥は楽屋になっている


なるほどと手を打つ先斗町の猫


焼けてみたろかと思うのも金閣寺


テーブルの脚だけ四本立っている


ハンカチを三度振ったら思い出せ

 

 

 


※本書は編者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】くにしちあき句集『国境の村』

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くにしちあき『句集 国境の村』2019年11月
ふらんす堂


 『国境の村』はくにしちあき(1949 - )の第1句集。序文:西村和子。

 著者は「知音」同人。

 

靴箱の一番上の春の靴


囀や地球は丸いかもしれず


透明になるまで花の下にをり


丸ごとの西瓜畳に父の声


半玉のまたたきもせず十三夜


自画像のピカソとしばし秋の暮


白南風のナポリ駅にて吾子を待つ


岩肌に吸ひついてゐる赤とんぼ


人形の肩に色気や春灯


熱風の押し寄せてくる神輿くる


読初は訳すつもりのミステリー


プルースト読みさしのまま卒業す


社長室へ呼び出され食ふ鰻かな


空港の書店にHAIKU翁の忌


すべり台ジャングルジムも初景色

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】岸本マチ子句集『鶏頭』

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岸本マチ子『句集 鶏頭』2019年11月
本阿弥書店


 『鶏頭』は岸本マチ子(1934 - )の第7句集。

 著者は「WA」代表。

 


六月の地軸はことに軋みおり


かやつり草何故かここから出られない


晩夏光まだ変身の途中です


凍蝶はまっくらがりの音がする


冬ざれて哲学している鍵の束


さみしさの前後左右を春という


春惜しむわたしの中にも駅がある


軍港に鬼火のようなものがいて


飛花落花ツタンカーメンの巨大な眼


秋夕焼「まて」の姿勢の犬がいて


枯蓮 即身仏というきらめき


ぞうり虫も眼をあけて見よ鰯雲


首里城にジュラ紀の春愁まぎれこむ


黙示録すっぽり入った蛍袋


まるでシャガール大黄落の中をゆく

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】大文字良句集『乾杯』

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大文字良『句集 乾杯』2019年11月
邑書林


 『乾杯』は大文字良(1954 - )の第1句集。序文:小澤實。

 著者は「澤」同人。

 


Gパンの尻に見惚れし桜かな


城なべて石の力や冬紅葉


寒鴉フォークソングを唄はんか


荒ぶ田や猪の匂ひの残りたる


一升瓶ごと燗つけよ秋祭


珈琲を濃く淹れ賀状読み直す


雛あられ抛るや犬の跳び食へる


芋蔓を曳き行く猿や手には玉葱


コンビニエンスストア車つぎつぎ雪載せ来


白梅の下を駆けるや猿五匹


ビルの窓突く鴉や梅雨に入る


サッカーボール蹴り抜かれたり春の泥


メーデー果つ雨に膨らみ段ボール


ウヰスキー買ひ来て妻とバレンタイン


トンカツを揚ぐる匂ひや子供の日

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】守屋明俊句集『象潟食堂』

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守屋明俊『句集 象潟食堂』2019年11月
角川書店


 『象潟食堂』は守屋明俊(1950 - )の第4句集。

 著者は「未来図」編集顧問。

 

   次男
炬燵出て腹筋鍛へ二十二歳


アクターズスクール宜野湾の残暑光


   三月十一日 東日本大震災 学内泊
看護実習用毛布重しや分かち合ふ


春塵を掃く抵当権取れたる日


毀つ家蝶はどこへも抜けられて


青葡萄の汁の飛び散り「ぴあ」終刊


原発の爆発音を語れば汗


もう翅の生えしも混じり蜂の子飯


閻魔より阿弥陀恐ろし松の花


年寄に持たすと乱射水鉄砲


  小諸 二句 より
春暖炉葡萄の蔓を二三焚き


糸吐いて吾子もモスラも繭ごもる


生身魂数珠揉むごとく箸洗ふ


零戦の消えにし空や藷を焼く


その朝も毛布畳みし知覧かな

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】秋尾敏句集『ふりみだす』

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秋尾敏『句集 ふりみだす』2019年11月
本阿弥書店


 『ふりみだす』は秋尾敏(1950 - )の第5句集。

 著者は「軸」主宰。

 

母の日のパンプス岸にたどりつく


蓮の花夜更けて水になる少女


大寒の鴨井に細き鬼の指


   東武乗馬倶楽部 二句 より
開花宣言鞭持つ少女ぞろぞろと


長崎ちゃんぽん母の日が過ぎている


いろいろな飛行機が来る夏の空


罪科のしばらく軽しどんどの火


   水木しげる氏追悼 二句 より
冬銀河目玉おやじが渡りきる


印旛沼とはさみだるる種の起源


七夕の空に石積む男かな


巨峰ひと房何の憂いもない


霧は道づれ戦後に長い裾野がある


ぬくもりは吹き残されてクリスマス


卯の花腐し書庫に刃物の二三本


一等の子が振り返る秋の空

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 


【十五句抄出】大島雄作句集『一滴』

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大島雄作『句集 一滴』2019年12月
青磁社


 『一滴』は大島雄作(1952 - )の第5句集。

 著者は「青垣」代表。

 

魚は氷に酒饅頭のほつこりと


遠泳や手首に絡むほんだわら


餅花の下に赤子の寝かさるる


神戸薄暑フランスパンが落ちてゐる


光りつつバス折り返す虫時雨


釣銭に落葉の混じる蚤の市


亀鳴くや一円玉に「日本国」


みつみつとアロエの肉や夏旺ん


あいまいな略図持たされ十二月


くつついて眠る猫の子クリスマス


埠頭にて尿意のほのか鳥曇


猪鍋や厚き布団の積まれある


灯を消してより二三言除夜の鐘


春光やマーマレードに皮多く


百年の家屋に段差風邪心地

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

「夢椿」第9号(2019年8月)&「立志」(2019年10月)

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「夢椿」第9号(2019年8月) 「夢椿」(発行:洛南高校俳句創作部)第9号(2019年8月)から。

 以下、部員1句ずつ。

 


スーツより雨の匂ひて半仙戯   井口葉子


母校へは躑躅の蜜を吸ふために   弓


電線を水のつたひて冬茜   中野葵


青嵐付箋で辞書を埋めつくす   谷口卓也


シーソーの調和乱れて花吹雪   数井稜二郎


逃水を家族で追つてはぐれをり   鈴木奏大


ラムネ瓶深き儚き音のする   山上莉央


祭笛ぽつんとノート開きおり   川田美紀

 


 以下、OB、OG。

 


甚平のポケット電子タバコ重い   黒岩徳将


むらさきのいろを失ひ蝉生る   大西遼


日傘閉じても飛行機のおちてゆく   細村星一郎

 


   *

 


「立志」(2019年10月) 以下は同じく洛南高校俳句創作部発行の「立志」(2019年10月)から。
 こちらは文化祭に合わせて発行されるものらしい。
 季語クロスワードパズルのページなどもある。
 「夢椿」と2ヶ月しか差がないためか、句の重複も少なくないのでそれ以外から。

 


朝焼けは雪を溶かさず伊吹山   竹内優(竹節虫優)


鞦韆や北斗七星連れてきて   谷口卓也


新月や無言でゐてもいい時間   奥井健太


平仮名は丸みを帯びて冬ぬくし   諸石光潤


霧雨や謝ればまた許す母   堀畑直希


曇天を引き裂くように鮭上る   鈴木奏大


三人と二人は違ふ秋薔薇   中野葵


玉葱の断面理屈くさくなる   古勝敦子


前髪を切るか切らぬか女郎花   小林さゆり


秋雨やノートに翻車魚瞬きぬ   川田美紀


鈍行や次は金木犀の駅   山上莉央


寝冷えして今日は一日トイレの精   山田健暁


雑踏に己消えたる渡り鳥   釜江康太

 

 

 

 

 

 

 

 

【十五句抄出】千坂希妙句集『天真』

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千坂希妙『句集 天真』2019年11月
星湖舎


 『天真』は千坂希妙(1951 - )の第1句集。

 著者は「船団の会」「青垣」会員。

 

一輪の梅の芯なる華厳かな


むらさきの雨となりたる紫蘇畑


ゴキブリはもつとゴキブリ殖やしたい


紙雛をほぐしては折る子供かな


六角の仁王の乳首蝉しぐれ


釉薬のテストピースや青葉風


納豆のセロファンに穴さやけしよ


行く秋や一度合はせる割れ茶碗


日向ぼこ靴下脱いでふと嗅いで


農薬の瓶が転がる春田かな


殺られたと死んだふりしてこどもの日


軍艦にその名貸したる山眠る


夏痩せて女ちりめんじやこめつてい


海王星そこにも鯨をりさうな


   追悼 保田與重郎
師の墓に雪激しくて帰られず

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】谷口智行句集『星糞』

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谷口智行『句集 星糞』2019年12月
邑書林


 『星糞』は谷口智行(1958 - )の第3句集。

 著者は「運河」副主宰兼編集長。

 

 

のどけしや野良着磯着をならべ干し


潮鳴りの午後を交めり天道虫


揉みくだくとき空蝉のこゑ混じる


ありあはせなれどもといふ鹿の肉


しどろに酔うて山火事を見てゐたり


岨攀ぢりゆく紅梅と分かるまで


常臥しの祖父が稲刈る日を定む


葦の穂のなぶり疵ある護岸壁


山芋の上半分を猪が喰ふ


古地図たよりに元禄の噴井まで


茄子刻む音に寄りくる烏骨鶏


健次忌の辻々に立つ青をんな


かつて火は鑽り出せしもの福沸


木の股と根の国通じゐて涼し


神ときに草をよそほふ冬の月

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】水谷由美子句集『浜辺のクリスマス』

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水谷由美子『句集 浜辺のクリスマス』2019年12月
角川書店


 『浜辺のクリスマス』は水谷由美子(1941 - )の第2句集。

 著者は「青山」「パピルス」同人。

 

叱りたるあとの寂しきしやぼん玉


初夢に我が家見てをり旅にゐて


聖堂の暗く涼しく一人かな


ベビースイミング終へし赤ん坊抱き取りぬ


忘れ物に引き返さうか花ミモザ


   郁余の長女 万友子十三歳
セーラー服着て巴里祭が誕生日


亡き母の春着に力貰ひけり


ぼろ市のパンプスに足止まりけり


ドラゴンフルーツもて会食の終りけり


船旅やプールサイドに夜の句会


レオタード干しあり春の風の中


ダイヤモンドヘッド明るき月の下


冬草を踏み冬草の名を知らず


吊り橋の大丈夫かしら着膨れて


庭中の土が蠢くチューリップ

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】永野シン句集『桜蘂』

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永野シン『句集 桜蘂』2019年12月
朔出版


 『桜蘂』は永野シン(1939 - )の第2句集。

 著者は「小熊座」同人。

 

冬芽には冬芽のひかり古戦場


木洩れ日も落葉の仲間高蔵寺


壺焼のぷくぷくあれが初デート


折紙の孔雀が形見春の地震


傍にがれき山積み田水沸く


御賓頭盧撫でれば秋の深まり来


コンバインの乗り手は少女雁渡し


春風や魚龍化石のような雲


春疾風この地捨てざる貌ばかり


枡酒の表面張力桃一枝


手も足もはずしたき日の大夕焼


フクシマの七年を知る竈馬


阿武隈の闇豊かなり雁渡る


原発の空につながる初茜


雪代のどこ曲っても夫が居る

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】吉野秀彦句集『音』

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吉野秀彦『句集 音』2019年12月
朔出版


 『音』は吉野秀彦(1959 - )の第2句集。

 著者は「小熊座」同人。

 

春の風邪世界は音でできている


天ぷらのすぐ浮かびくる残暑かな


ウブスナヲヨゴシステヨトハルミタビ


光るものご飯みそ汁春隣


白梅や方丈記にブルーシートなし


明日は無きはらからばかり蛙の子


大屋根の影ひきしまる炎暑かな


秋蝶の眼すべてに泥の水


汚染水も天界生れ秋の暮


凍雲の底を上るや栄螺堂


セーターは母胎なるかや頭蓋骨


レントゲンの骨の白さや夏来たる


実梅落つ音の確かや吾子の恋


除染なる言葉沁みつき年の暮


蝉声の突き刺す中にバスを待つ

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 


【雑録】このひと月くらいに読んだ本の書影 Part80

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 12月はびっくりするくらい本が読めなかった。ほぼ2日で1冊ペースにまで落ちた。

 多忙よりも不調である。

 

安部公房『人間そっくり』安部公房『人間そっくり』新潮文庫・1976年
《《こんにちは火星人》というラジオ番組の脚本家のところに、火星人と自称する男がやってくる。はたしてたんなる気違いなのか、それとも火星人そっくりの人間なのか、あるいは人間そっくりの火星人なのか? 火星の土地を斡旋したり、男をモデルにした小説を書けとすすめたり、変転する男の弁舌にふりまわされ、脚本家はしだいに自分が何かわからなくなってゆく……。異色のSF長編。》

 

 

 

 

 


安部公房『飢餓同盟』安部公房『飢餓同盟』新潮文庫・1970年
《眠った魚のように山あいに沈む町花園。この雪にとざされた小地方都市で、疎外されたよそ者たちは、革命のための秘密結社“飢餓同盟”のもとに団結し、権力への夢を地熟発電の開発に託すが、彼らの計画は町長やボスたちにすっかり横取りされてしまう。それ自体一つの巨大な病棟のような町で、渦巻き、もろくも崩壊していった彼らの野望を追いながら滑稽なまでの生の狂気を描く。》

 

 

 

 

 


大橋歩『トマトジュース』大橋歩『トマトジュース』講談社文庫・1982年
《赤くはちきれそうなトマトは若い女の子のラヴマーク。ダレかに恋して心がチリチリキンキン痛んだら、この本はアナタの友達です。人気イラストレーター大橋歩が、恋のこと、結婚のこと、仕事のことナドナド……、ハートからハートへ語りかける新鮮でちょっぴり純情な第一エッセイ集。楽しいイラストもいっぱい。》

 

 

 

 

 


スウィフト『ガリヴァー旅行記』スウィフト『ガリヴァー旅行記』岩波文庫・1980年
《子供のころ誰しも一度はあの大人国・小人国の物語に胸を躍らせたにちがいない。だが、おとなの目で原作を読むとき、そこにはおのずと別の世界が現出する。他をえぐり自らをえぐるスウィフト(1667‐1745)の筆鋒はほとんど諷刺の枠をつき破り、ついには人間そのものに対する戦慄すべき呪詛へと行きつかずには止まない。》

 

 

 

 

 

 


中薗英助『夜の培養者』中薗英助『夜の培養者』徳間文庫・1981年
《微生物研究者が急死した。死の真因は何か? 科学記者の小檜山弘はそれに疑惑を持つが、死者の親友寺田の罠にはまり、隔離病舎に封じ込められる。そこは恐るべきペスト菌の研究所でもあった。
 戦時下の満州で幻の細菌戦部隊として恐怖の伝説を残す第731部隊の要員――それが寺田の実体であったが、なぜか親友の遺志をつぎ、死を賭して研究の完成を急ぐ。
 ペスト菌の恐怖と極限状況を描く実験作。》

 

 

 

 


海渡英祐『霧の旅路』海渡英祐『霧の旅路』徳間文庫・1988年
《伊原加奈子は失恋の痛みを胸に、勤め帰りにふと貿易センター・ビルに立寄った。そこで出会ったのが、暗い翳を漂わせる曾根啓治という男。彼女は、男が恋人殺人の容疑をかけられていることを知らされた。曾根と加奈子の運命的な出会いだった。二人は協力して、曾根の容疑を晴らすべく行動を開始。だが、二人が動き始めた途端、第二、第三の殺人事件が。緻密な人物描写と意外性で描く愛と不信のサスペンス。》

 

 

 

 


宮本常一『庶民の発見』宮本常一『庶民の発見』講談社学術文庫・1987年
《日本の農山漁村は昔から貧しかった。そして古い時代からこの貧の問題の根本的な追究が欠けていたのではないか、と著者はいう。本書は、とくに戦中・戦後における嫁の座、私有財産、出稼ぎ、村の民主化、村里の教育、民話の伝承などを通して、その貧しい生活を克服するため、あらゆる工夫を試みながら精いっぱいに生きる庶民の姿を多角的に捉えたものである。庶民の内側からの目覚めを克明に記録した貴重な庶民の生活史といえよう。》

 

 

 

 


ウナミサクラ『ハレムの王国、はじめ(られ)ました』ウナミサクラ『ハレムの王国、はじめ(られ)ました』アズ文庫・2014年
《真面目だけが取柄の青年、尊人はいつものようにバイト先から帰る途中、突然眩しい光に包まれ……目覚めたところは砂漠にそびえる塔の中。なんとそこは虎族、狼族、蛇族、兎族、烏族という五つの獣を始祖とする一族がそれぞれ五大陸に暮らす五獣界。百年に一度、異世界の扉が開いて猿族の裁定者が召喚され、王を決める儀式が行われるのだという。裁定者である尊人は25日間のうちに五族の代表の中から結婚相手を選ばねばならず……。》

 

 

 


市村弘正・杉田敦『社会の喪失―現代日本をめぐる対話』市村弘正・杉田敦『社会の喪失―現代日本をめぐる対話』中公新書・2005年
《高度成長、バブル経済を経るなかで、日本は貧困を駆逐し、「豊かな社会」を実現したかに見える。しかし一方で、さまざまな不安が日常を侵食し、“成功”という病が人々疲弊させるようになっている。本書は、現代日本のいくつかの断面を手がかりに、時代や社会のあり様について、根底から考え抜こうとした対話である。戦争をどう考えるか。いま私たちの社会から何が失われつつあるのか。危機のありかとその根深さを探る。》

 

 

 

 


山岸哲『マダガスカル自然紀行―進化の実験室』山岸哲『マダガスカル自然紀行―進化の実験室』中公新書・1991年
《マダガスカルは六五〇〇万年ほど前、エピオルニスのような古い走鳥類などを乗せてアフリカ大陸からインド洋に向け漂流してしまったため、その後に大陸で新たに出現した動物は一部しか渡ってこられなかった。本書は、自然の聖域として動物の進化の研究に格好なこの島へ学術調査に出かけた鳥類学者による観察記録で、奇妙なくちばしをもつモズ類等の生態と島の自然環境、そこに生活する住民の姿を生き生きとした筆致で伝えてくれる。》

 

 

 

 


山内景樹『日本船員の大量転職―国際競争のなかのキャリア危機』山内景樹『日本船員の大量転職―国際競争のなかのキャリア危機』中公新書・1992年
《第二次大戦後、壊滅的状態から復興した日本海運は、国家政策の支援を得て、たちまち世界有数の規模に到達した。技術開発による生産性向上により、数々の好不況を乗り切ってきた海運業界も、国際競争力の低下にともない、人件費の大幅な抑制を迫られた。本書は、一九八七―八九年の「緊急雇用対策」によって新天地を求めて転職していった人々へのインタヴューを中心として、戦後日本を支えた海の男たちの気概を伝えるルポである。》

 

 

 

 


小松和彦『神隠しと日本人』小松和彦『神隠しと日本人』角川ソフィア文庫・2002年
《ある日、突然、人が日常世界から消え失せてしまう「神隠し」とは、何なのか。「神隠し」にあった人はどこへ行き、何を体験していたのか。どのような神霊が人を異界へいざなうのか。暗く悲惨な響きだけでなく、柔和で甘美な響きをもつ「神隠し」をめぐる民話や伝承を訪ね、多くの事例を分析。異界研究の第一人者が、迷信でも事実でもない、「神隠し」の謎と日本特有の「死の文化」を解き明かす!
解説・高橋克彦》

 

 

 

 


井上ひさし『笑談笑発―井上ひさし対談集』井上ひさし『笑談笑発―井上ひさし対談集』講談社文庫・1978年
《日本の土壌には育ちにくく、軽んじられてきた笑いの文学。だが、次元の高い笑いは既成の価値を転倒させ、逆の視点を提示する。そこには裸に剥かれた人間の本当の姿が現われてくる。笑いの創造に呻吟する実作者が、戯作・道化・ユーモア・パロディ……と、それぞれの分野に人を得て、語りつくした「笑い」の十夜話。》

 

 

 

 

 

山口昌男編著『二十世紀の知的冒険―山口昌男対談集』山口昌男編著『二十世紀の知的冒険―山口昌男対談集』岩波書店・1980年
《1 二十世紀の知的青春――R・ヤコブソン/2 昨日の音楽、明日の音楽――S・シルヴァーマン/3 人間科学の新たな地平――C・レヴィ=ストロース/4 歴史学の新しいパラダイム――M・ド・セルトー/5 演劇と神話の多義空間――ヤン・コット/6 演劇の知的な力――R・フォーマン/7 詩・エロス・宇宙――オクタヴィオ・パス/8 祝祭としての音楽――A・チッコリーニ/9 記号論の冒険――D・シーガル/10 パフォーマンスの人類学――R・シェクナー/11 ラテン・アメリカの文学と知的伝統――バルガス・ジョサ/12 文化の〈アイデンティティ〉を求めて――G・スタイナー》

 

 


竹内実『北京―世界の都市の物語』竹内実『北京―世界の都市の物語』文春文庫・1999年
《黄土が生んだ城壁都市、北京。その歴史は神代に始まる。人類の始祖のひとつ北京原人、理想の王・黄帝から、今日の城内を完成し、庭園を充実させた清の康煕、雍正、乾隆帝、そして毛沢東、鄧小平まで。この都における英雄たちの事跡をたどりつつ、紫禁城の構造、料理、演劇、庭園、胡同の生活と北京の魅力をあますところなく紹介する。》

 

 

 

 

 

 


江田絹子『津軽のおがさまたち―民間信仰の旅』江田絹子『津軽のおがさまたち―民間信仰の旅』北方新社・1977年
《土俗の神々を信じ、北国のきびしい風土に耐えて生きてきた、名もない津軽のおがさまたち》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリビア写真館 Part9

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2018年10月8日、11月4日

20181008 ギリヤーク新宿公演他 (74)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20181008 ギリヤーク新宿公演他 (83)

 

 

 

 

 

 

20181008 新宿_お茶の水カラー (5)

 

 

 

 

 

 

20181008 新宿_お茶の水カラー (6)

 

 

 

 

 

 

20181008 新宿_お茶の水カラー (10)

 

 

 

 

 

 

20181104 お茶の水神保町 (5)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20181104 お茶の水神保町 (9)

 

 

 

 

 

 

撮影はK.Onomura

 

 

 

 

 

 

【十五句抄出】山田佳乃句集『残像』

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山田佳乃『句集 残像』2020年1月
本阿弥書店


 『残像』は山田佳乃(1965 - )の第3句集。

 著者は「円虹」主宰。

 

青貝に遊びし春の光かな


白靴の海へ海へと向きたがる


籐椅子を軋ませ海へ寝返りす


日盛の女人高野にすれ違ふ


敵味方共に眠らせ夏木立


初時雨使はぬ部屋のまたひとつ


後鳥羽院刺しし御ン蚊の末裔か


手を繋ぐ父の日焼と子の日焼


秋の蝶空の階段降りてくる


行秋の後ろ姿のやうな雲


数珠玉や一人遊びのごと暮す


混沌の中へラガーの次々と


三年を寝かせし本の読始


つり銭も前掛けも濡れ蜆売


南北朝分つ細道八重桜

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】中村紅絲句集『種のある半球』

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中村紅絲『句集 種のある半球』2019年12月
邑書林


 『種のある半球』は中村紅絲(1939 - )の第1句集。

 著者は「翔臨」会員。

 

酢の色の二筋の帯梅雨夕焼


刃を入れる赤子の頭大の梨


裏側の斑が透けて凍る月


万緑の奥に揺らぐ目モジリアニ


桃割つて種ある半球無き半球


嚙んで脱ぐ手袋になほけもの臭


逃水から顔ずぶ濡れで電車現る


髪洗ふ処刑のごとく首のべて


仰向けの肢あるみどり鵙の贄


マラソンの佳境に捨てるサングラス


枯蔦を引けばへらへら蹤く礫


碩学の斑ある禿頭散るさくら


告天子のぼつてものぼつても梯子


耳の日や耳の形の大阪府


白服の胸のかげりは知のあかし

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】齊藤實句集『百鬼の目玉』

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齊藤實『句集 百鬼の目玉』2019年12月
コールサック社


 『百鬼の目玉』は齊藤實(1938 - )の第1句集。

 著者は「沖」同人。

 


海山を平面にして鳥帰る


がさ小屋に電球ひとつ飾売


さくら貝五枚並べて花にする


蛇の衣草の途方にくれてをり


母の日の子の描く顔のごとくゐる


SLの黒に金文字鬼やんま


剃刀の切れめつぽふな障子貼る


うららけし王子は洋紙始祖の街


年に一度外す錠前宮神輿


真ん中の割れるオムレツ夏旺ん


星飛ぶや星の名前の寝台車


帰りにはよき声の出て一年生


自転車の浮くやうに来る遠霞


虫ピンの宙に浮く虫夏の果


野分あとドレッシングの分離急

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

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