【十五句抄出】中村ひろ子句集『ドロップ缶』
2018年9月ふらんす堂 『ドロップ缶』は中村ひろ子(1969 - )の第1句集。序文:鍵和田秞子。 著者は「未来図」同人。 よしず立て風は隣家の息遣ひ 悠々と大空を切り小鳥来る 聖樹飾る娘いつしか背伸びせず 小さき手でドロップ缶振る火の用心 冬枯の阿蘇の軽さを踏みしめて 出鱈目な歌高らかにプールの子 めがね男子群れて十月桜咲く 毛皮着て我が背猛々しくなりぬ 以下《熊本地震後初帰郷して...
View Article【十五句抄出】夏木久俳句風曲集『風典』
2018年9月風詠社 『風典』は夏木久(1951 - )の第3句集。 著者は「連衆」「豈」「俳句新空間」参加。 風曲る角に手洗ふ水の暮 母の影海に戻せば回遊す 葱白く逢魔が時をひだす 一角獣都心の森の隅に棲み 月光の四肢美しき程麻酔 雲の峰より一団の湯治客 雑草と呼ばれ大地を夢夢と 画期的な暴言吐いて退席す 遊歩道夢の剥製並べられ 電線や空麗らかに腑分けされ 炉話の続きは半減期の先へ...
View Article【十五句抄出】日下野由季句集『馥郁』
2018年9月ふらんす堂 『馥郁』は日下野由季(1977 - )の第2句集。栞文:大木あまり。 著者は「海」編集長。 揺れやむは泣きやむに似て藤の花 風を聴くかたちとなりて薄氷 猫一匹分の日だまり冬の草 またひとつ星の見えくる湯ざめかな 考ふる睫毛長しよ夏薊 揚花火息ととのへてよりひらく 雨粒の大きく百合の蕊伝ふ 水澄めり受胎告知のしづけさに 秋の雲あまたあつまりゐて薄し...
View Article【十五句抄出】鶴岡行馬句集『酒ほがひ』
2018年9月邑書林 『酒ほがひ』は鶴岡行馬(1956 - )の第1句集。行馬五句:藤田湘子、序文:小川軽舟、跋文:奥坂まや。 著者は「鷹」同人。 鷄のため貝殻つぶし卒業す 大虚子の忌の荒草を機械刈 古書店の白熱燈と蠅叩 宿帳に敎員と書く秋の暮 稀覯書といへど仙花紙猫の戀 月蝕や柱をのぼる蟻の列 波郷全集重ね散らばり冬に入る 梁に吊す兔や年用意 赫奕と鴨發たす日の昇りけり...
View Article【十五句抄出】稲元幽林句集『夢の指紋』
2018年7月ジャプラン 『夢の指紋』は稲元幽林(1941 - )の第1句集。 著者は「形象」会員。 雲映す水路に落葉カニの群れ 色も香も夢の続きで金木犀 死者の影虹をまといて渡ります 夕映えの棚田は大地の切り絵です 羽化の蝶居ずまい正し翔びたちぬ 化石にも夢の指紋はあるかしら 忘れるは悲しくうれしい寒椿 眼力の志功の女梅雨の花 かげろうをつかみそこねた猫昼寝 見返りのできぬ姿のやぶ椿...
View Article【十五句抄出】細田慶子句集『七分の嘘』
2018年9月ジャプラン 『七分の嘘』は細田慶子(1950 - )の第2句集。 著者は「形象」会員。 空欄を春の光で埋める母 水明かり春の苦味を燃やしてる 精神を丸洗いして野水仙 球形の思考が苦手春の闇 晴天の青不足して君の葬 さくら草 記憶の底を開けなさい 一筆箋持て余している白蓮 小判草 母が呆けただけのこと 神無月白い時間を描く母 月光を身の芯で聞く都鳥 人の世の端をなぞって蝸牛...
View Article【十五句抄出】浅井民子句集『四重奏』
2017年8月本阿弥書店 『四重奏』は浅井民子(1945 - )の第2句集。帯文:坂口昌弘。 著者は「帆」主宰。 並べ干すオールに春の来てゐたり 岩礁に魚の眠る朧かな 流木のアート日焼けの男たち カヌー庫のやかん煤ける夏の果 十月の渚詩篇をいくつ生む わだつみや貝の器に切山椒 葛きりや縁下に鯉太らせて 蚊遣焚くかもめ食堂潮時表 黄落やサックス吹きのをみなたち 雪しんしん柱時計に捻子ふたつ...
View Article【十五句抄出】竹岡一郎句集『けものの苗』
2018年10月ふらんす堂 『けものの苗』は竹岡一郎(1963 - )の第3句集。 著者は「鷹」同人。 狐火に守られて森怖くない 自傷あまたの四肢暮れなづむ学校プール 花嫁のため食人植物(トリフィド)の花氷 水母は灯七歳までは神のうち 蛸屋敷こそ松原のすつてんてん 一家戦没以来不死なる竈猫 殴られすぎて音楽になる雪か 天井に包丁吊つて冴えて安心 手花火に透けてたたかふ子どもたち...
View Article【十五句抄出】永瀬十悟句集『三日月湖』
2018年9月コールサック社 『三日月湖』は永瀬十悟(1953 - )の第2句集。 著者は「桔槹」同人。 逢ひに行く全村避難の地の桜 笑ひ声聞こえし頃の家朧 村はいま虹の輪の中誰も居ず 保育所に靴がそのまま秋桜 どこまでも更地どこまでもゆく神輿 届かねど稚児鹿舞(ちごししまひ)へ団扇風 一角に牡丹一角に瓦礫山 蛇穴を出る切れ長の眼なり 大なめくぢ這はせて橅(ぶな)は母なる木...
View Article【十五句抄出】飯田晴句集『ゆめの変り目』
2018年9月ふらんす堂 『ゆめの変り目』は飯田晴(1954 - )の第3句集。 著者は「雲」主宰。 火の匂ふ鯛焼きに銭使ひけり 蜜蜂に倒木のやはらかくあり 夜の葉のかさなりへ打つ盆太鼓 家ほぐす途中ゑのころ草が透け 新宿の一点が綿虫になる 睡蓮の水のつづきに坐りをり 電車もう終るころなる白襖 ゆびさきの影の二重や蠅生る 赤と白食うて正月休みかな ふりかへるとき枯蘆をたしかむる...
View Article【十五句抄出】荒木かず枝句集『真埴』
2018年9月邑書林 『真埴』は荒木かず枝(1948 - )の第1句集。序文:小川軽舟、跋文:宮木登美江。 著者は「鷹」同人。 落人の血を引く夫の焚火かな 生身魂山の谺と遊びをり あでやかな木偶の鉄漿小正月 内海に向けて真蛸の奴干し 父よひまはりの種とりくれし父よ 火事を見てをりぬ男の肩越に 梅雨深き夜や網棚の週刊誌 外套を脱がず焼場の喫茶室 山深く龗(おかみ)まつれり山椒魚...
View Article【十五句抄出】有住洋子句集『景色』
2018年10月ふらんす堂 『景色』は有住洋子(1948 - )の第2句集。 著者は「枻」同人、個人誌「白い部屋」発行。 水鳥のいつもとほくにゐるかたち 固く乾いた山焼の手と思ふ 菊坂の撓んでゐたり晩夏光 蛇の衣夢の覚めぎはきはだちて 盛装の人立つてゐる夏の果 八月の豆に砂糖が浸みてゆく 仏像の足先反つてゐる野分 秋燈の真下を拭いてをられたる 水うすくひろがつてゐる裸足かな...
View Article【十五句抄出】佐藤清美句集『宙ノ音』
2018年10月六花書院 『宙ノ音』は佐藤清美(1968 - )の第3句集。 著者は「鬣」同人。 窓越しの桜 図書室は船 書店にて少年梅雨をやり過ごす 方舟という名のバスや秋の旅 水を飲む厨に夏の風は来て 目覚めても補習の続く夏休み 夏読書書店員はエプロンで 曲線の猫の道あり彼岸花 台風一過大気の色は薄く青 足跡の一つは母よ春の海 人を恋う夕日の沈みゆく国で ほほえみを想えば樹下は夏の風...
View Article【十五句抄出】『今井杏太郎全句集』
2018年9月角川書店 『今井杏太郎全句集』は今井杏太郎(1928 - 2012)の5冊の句集と補遺をまとめたもの。栞文:大石悦子・片山由美子・井上弘美・鴇田智哉・高柳克弘。 以下『麥稈帽子』老人が被つて麥稈帽子かな 明け方の蚊帳のまはりに畳かな 提灯の消えてゐたりし祭かな 以下『通草葛』あたたかや貝殻虫もふくらんで 蛤を焼けばけむりのあがりけり...
View Article【雑録】このひと月くらいに読んだ本の書影 Part66
10月は上旬、不調で1冊も読めず。 「ピエール・ボナール展」(国立新美術館)と、バンジュン特集上映(神保町シアター)のなかから中村登監督『顔役』というのと、ギリヤーク尼ヶ崎青空舞踏公演(50周年)を見た。SST(榮猿丸、関悦史、鴇田智哉)プラス有志計6名で「マルセル・デュシャンと日本美術」展を見て吟行した(東京国立博物館)。...
View Article【十五句抄出】樋口由紀子句集『めるくまーる』
2018年11月ふらんす堂 『めるくまーる』は川柳作家・樋口由紀子(1953 - )の第3句集。 著者は「晴」編集発行人、「豈」同人。 嬉しくて軍手のことを考える 蓮根によく似たものに近づきたい どのパンを咥えて現れでてくるか よろずやの二階で涙止まらない 雑巾をかたく絞ると夜になる ダブルベッドのどこに置こうか低い鼻 自転車で轢くにはちょうどいい椿 匿名のままで歩いていく廊下...
View Article【十五句抄出】中里夏彦句集『無帽の帰還』
2018年11月鬣の会 『無帽の帰還』は中里夏彦(1957 - )の第2句集。 著者は「鬣」同人。本籍:福島県双葉郡双葉町。 《生まれ育った家自体は現在も同じ場所に存在しているが、その家に近づくことが国によって未だに制限されている》(あとがき) 数多(あまた)のわれの一人(ひとり)激雨(げきう)を来(き)つつあり *天地(てんち)...
View Article【十五句抄出】上田玄句集『暗夜口碑』
2018年10月鬣の会 『暗夜口碑』は上田玄(1946 - )の第3句集(多行形式としては2冊目)。 著者は「鬣」「面」同人。 降雹愁殺築地署道場 *病む馬と山背相呼ぶ大夏野 *沖から防人ガリ版刷りの詩書を持ち *銃後の街に尾鰭は泳ぐ水枕 *撃チテシ止マム父ヲ父ハ *ジョニーハ次郎ハ丸太ヘト *銃後銃前食前食後 *繃帯ヲ脱ギ水母 *夕空に並び放尿鬼も仔も...
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