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Channel: 閑中俳句日記(別館) -関悦史-
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【十五句抄出】藤原月彦『藤原月彦全句集』

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藤原月彦『藤原月彦全句集』2019年7月
六花書林


 『藤原月彦全句集』は藤原月彦(1952 - )の全句集。『王権神授説』『貴腐』『盜汗集』『魔都 魔界創世記篇』『魔都 魔性絢爛篇』『魔都 美貌夜行篇』を収録。

 著者は「豈」創刊同人。89年以降は歌人藤原龍一郎としての活動に軸足を移す。

 

 

 

 

   『王権神授説』


致死量の月光兄の蒼全裸(あおはだか)


天変のさきぶれとして親友(とも)娶る


乱歩忌の劇中劇のみなごろし


   『貴腐』


秋の夢より誰が去りし深轍


母死なばらふそくとなる出雲かな


陽炎を喀く飼猫を見てしまふ


   『盜汗集』


鵙鳴けり子供芝居の修羅場にて


花火の火もて妹の股犯す


   『魔都 魔界創世記篇』


鍵穴の向ふ吹雪の満州か


日雷自動筆記の終りなき


数歩にて終る板廊下の暮春


   『魔都 魔性絢爛篇』


夜桜にほろびのゆめの大日本


晩春の謎として父ながらへよ


   『魔都 美貌夜行篇』


月光に自転車群るる綺譚かな


ゆくすゑは天狼星とのみ告げむ

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 


【十五句抄出】安藤恭子句集『とびうを』

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安藤恭子『句集 とびうを』2019年7月
ふらんす堂


 『とびうを』は安藤恭子(1959 - )の第2句集。

 著者は「泉」を経て「椋」会員。

 


木の影の起伏こまやか春の苔


菜の花や旧家は海に開かれて


指先の目覚めてきたる苺かな


緑さすごちそうさまといふ声に


暗がりに薬箱ある雪解かな


木々の芽のうちかさなれる大時計


眠ることおそろしといふ百合の花


墓石の倒れたるまま秋澄みぬ


片方の眼ぬぐつて蜻蛉発つ


秋うらら子の目はいつも不思議さう


シャッターの音響かせし冬野かな


フーコーの振り子ゆつくり秋めきぬ


フランスに置き忘れたる夏帽子


カウベルは草嚙むリズム雲の峰


大学のラボ灯るまま月の蝕

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】小川軽舟句集『朝晩』

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小川軽舟『句集 朝晩』2019年7月
ふらんす堂


 『朝晩』は小川軽舟(1959 - )の第5句集。

 著者は「鷹」主宰。

 

 

駅弁を家に食ひつつ日の永き


遠ざかる町に家族や立葵


洗面所水散らかして秋の朝


翻訳劇花冷の床踏み鳴らす


梅雨の日々ジャージでゆるく暮らしたく


貝殻を拾ふ子に佇つ日傘かな


冷蔵庫闇にひらきて光抱く


花眼もて後撰集読む夜寒かな


水涸れて川原広きが川の栄(はえ)


神楽の夜宇宙さへぎるもののなし


初夢や昔の母に今の吾


手毬歌老女少女のこゑを出す


遠足や後ろ歩きで話せる子


めらめらと氷にそそぐ梅酒かな


日向水覗いてゐし子消えてなし

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】生駒大祐句集『水界園丁』

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生駒大祐『句集 水界園丁』2019年6月
港の人


 『水界園丁』は生駒大祐(1987 - )の第1句集。

 著者は「天為」「オルガン」「クプラス」などを経て無所属。

 


鳴るごとく冬きたりなば水少し


せりあがる鯨に金の画鋲かな


まひるまを千鳥のこととして眠る


枯蓮を手に誰か来る水世界


能面の木箱へ帰る時雨かな


ゆゑに侘助水も己を不気味がり


雨のとびかひてあかるき花の昼


鯉抜けし手ざはり残る落花かな


鳥たちのうつけの春をハトロン紙


六月に生まれて鈴をよく拾ふ


蝉いつも遠しよ水の味して汝


擦りへりて月光とどく虫の庭


梨の皿葉書の隅のはるかな帆


十月を針の研究してゐたり


茸から糸でて南部鉄瓶か

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】小橋信子句集『火の匂ひ』

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小橋信子『句集 火の匂ひ』2019年7月
ふらんす堂


 『火の匂ひ』は小橋信子(1948 - )の第1句集。序文:藤本美和子。

 著者は「泉」同人。

 


屍の匂ひもすこし千草かな


あくがれて十一月の葱の色


またいつか会はむと母の逝く朧


馬撫でて秋の日差にかこまるる


あそぶなら雀の入りし枯葎


明け方の草のつめたき糸とんぼ


榾の名を梅と聞きたる春炉かな


母に似し声のきこえて蛍狩


日の暮れて首の吹かるる羽抜鶏


潮騒の通りぬけたる籠枕


かへらざる旅のあるなり歌がるた


寒木のひとつの影の濃かりけり


自転車の籠空いてゐる百千鳥


かがやける翅吸はれゆく蟻の穴


竜淵に潜みてよりの化粧筆

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】佐川盟子句集『火を放つ』

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佐川盟子『句集 火を放つ』2019年7月
現代俳句協会


 『火を放つ』は佐川盟子(1962 - )の第1句集。跋文:池田澄子。

 著者は「鏡」同人。

 

雲低く夏の終りを渡りくる


雨に焚き送火を見てゐるふたり


霜を食む犬としばらく朝の星


手袋の指でフレミングの法則


左利きのためのすり鉢芋の秋


おでん煮ゆ口笛の交響曲第九


三月来そのときそこにゐなかつた


真葛原むかしイチエフありました


青葉若葉実験動物慰霊祭 


脱げさうな靴で西日を歩いてゐる


容疑の男サンダルで捕はるる


蝉のこゑ淡く巡らす廃墟かな


少年に十代永し鮎の川


秋まつり白髪がちなる青年部


月欠ける速さ未来が古びゆく

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】鷲巣正徳句集『ダ・ヴィンチの翼』

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鷲巣正徳『句集 ダ・ヴィンチの翼』2019年7月
私家版


 『ダ・ヴィンチの翼』は鷲巣正徳(1952 - )の句集。序文:今井聖。

 著者は「街」同人。

 


短日や段ボールの翼竜が飛ぶ


フェルメールの光の粒や冴返る


犬の灰埋めれば立てり入道雲


猫逝くや片目に白き露生れて


秋の夜の猫が顔擦る本の角


侠客の如き藁塚日本海


嚙む如く水飲む犬や花野中


押し合つて羊の帰る夕夏野


酸素吸ひ胎児の如く昼寝かな


銀河から鳥のかたちの立ち上がる


始祖鳥の眼の潜みをり藤の中


ゑのころや電車見るのが好きな犬


潮吹いて星と交信する鯨


生きんとて気管切らるる秋の暮


ダ・ヴィンチの翼で翔ける冬銀河

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】辻内京子句集『遠い眺め』

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辻内京子『句集 遠い眺め』2019年7月
ふらんす堂


 『遠い眺め』は辻内京子(1959 - )の第2句集。帯文:小川軽舟。

 著者は「鷹」同人。

 

太陽の痩せて白しや枯木山


雪だるま片側暮れてゐたりけり


電気屋の角を曲がれば枯野原


やはらかに石しずみゆく泉かな


天麩羅粉床にこぼるる祭かな


黒犬が逃水を横切って行く


寒林に父の帽子を探しにゆく


灯を傲る新宿歌舞伎町や雪


夏至の日暮は大海原に漕ぐごとし


使ふほど嵩増す辞書や柿若葉


水のなきプール歩けり寒鴉


カフェラテの泡風に散り新社員


葉桜やカーテン多き保健室


運転免許返納の日のバナナかな


肉屋の肉赤を競へりクリスマス

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 


【十五句抄出】鬼頭桐葉句集『初明り』

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鬼頭桐葉『句集 初明り』2019年7月
ふらんす堂


 『初明り』は鬼頭桐葉(1921 - ?)の遺句集。

 著者の所属結社等は記載なし。

 

 

足音のそれてゆきけり朧月


花衣ぬぎてもみぬち昼の月


干したての夏ざぶとんで許されよ


あぢさゐを剪りてはゆるく振りにけり


仏壇で満開となる牡丹かな


   岡井省二師ご永眠 一句
しづかに降りし緞帳の大花野


大文字死者と生者と糸電話


こゑかけて遺影に松茸土瓶むし


釣り人の遠まなざしに鳥渡る


十六夜の九十媼の影さがす


たが影もなく雪折の音したり


冬田いま夕焼けいろの水たまり


お布団の海鼠となりてぺつたんこ


なつかしや笑ひころげしなまこたち


ゆらゆらと歩みてのべる御慶かな

 

 

 

※本書は版元より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】大崎紀夫句集『釣り糸』

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大崎紀夫『句集 釣り糸』2019年6月
ウエップ


 『釣り糸』は大崎紀夫(1940 - )の第10句集。

 著者は「やぶれ傘」主宰。

 

坂道をからすおりゆく春隣


枝蛙こけし工房窓開けて


十階の窓より日雷の町


鮎を焼く隣りで握り飯焼かれ


竹筒の口へ蝗を落しけり


雨が降る十一月の校庭に


塩田をこりがつてゆく波の花


おぼろ夜の羽田空港管制塔


椅子すこし廻して鞄とつて夏


光りつつ海昏れてゆくかき氷


炎昼の空のもやもや犬眠る


津軽晴れゐてをちこちに捨て南瓜


岩間より水音のくる鳥兜


水澄んで底のヘドロに波のかげ


菱採りの舟ずるずると揚げらるる

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】泉沢浩志句集『枯野』

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泉沢浩志『句集 枯野』2009年4月
そうぶん社


 『枯野』は泉沢浩志(1924 - )の第5句集。

 著者は戦中に弾圧された新興俳句誌「蠍座」を経て無所属。

 

気散じの老いの奇声や春霰


枯葎曳けば天心空咳す


宛名なきハガキ混じれる牡丹雪


穴一つ半掘りにして春隣


蛇穴やふと地下駅に降りかけし


見返さる五人囃子のはじつこに


浮世絵の目で見返さる花吹雪


花吹雪大き身震ひして了る


亀鳴くや猫ゐずまひを正したる


残像を枝に吊して鳥帰る


八月十五日まだうごきをりきさまの死


敗戦忌へんな漢(をとこ)がすこし哭く


血が垂るるのみの昭和や心太


木下闇道標のごと爺佇てり


予科練の短剣ほどの秋刀魚かな

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【雑録】このひと月くらいに読んだ本の書影 Part75

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 何も読めない日もかなり多かったものの、新宿駅西口や池袋西武の古本市で買い込んだものを少しずつ消化。光瀬龍『かれら星雲より』などは本の存在自体知らなかった。装幀は金森達。

 堤未果『日本が売られる』は半年以上前に買ったものだが、参院選前にやっと通読。

 絵本2冊『だるまさんの』『おしりたんてい』は歯医者の待合室で読んだもの。

 『熊野概論―熊野、魂の系譜Ⅱ』は大分前に著者から頂いていたもの。記して感謝します。

 

 

かがくいひろし『だるまさんの』かがくいひろし『だるまさんの』ブロンズ新社・2008年
《「だ・る・ま・さ・ん・の」めがねをかけただるまさんが登場。ページをめくると、あっとおどろく展開に! 大人気のだるまさん、こんどは何を見せてくれるかな? わらいがはじけるファーストブック、話題の「だるまさん」シリーズ第2弾です。》

 

 

 

 


高橋たか子『失われた絵』高橋たか子『失われた絵』河出文庫・1981年
《男のなかの蛇と女のなかの蛇とが、縺れあい絡みあう。二つは一つになって、性の無限級数を昇りはじめる。その極限には何かあるのだろう。私は神を思う――したたかに快楽を享受する奔放な女主人公。彼女をめぐるマザー・コンプレックスの独身青年と強靭な中年男。三人の照応が織リなす女性心理の内奥を大胆に描き、めくるめく性の形而上学を展開して注目された著者の記念碑的秀作他二篇。》

収録作品=失われた絵/白い光/夏の淵

 

 

 

 


丸谷才一・山崎正和『見わたせば柳さくら』丸谷才一・山崎正和『見わたせば柳さくら』中公文庫・1992年
《日本人が古代以来表現してきたものは現在どういう形になっているのか。歌会始、相撲、歌舞伎などの伝統的表現から現代の映像、都市に至るまでを俯瞰して、共通の型を探求する。西欧近代の影響下で歪められた日本文化論を、伝統という視点で照らして正す、知的対談。》

 

 

 

 

 

 


柳田国男『こども風土記・母の手毬歌』柳田国男『こども風土記・母の手毬歌』岩波文庫・1976年
《日本の各地に伝わる子供の遊びの種々相とその背後に潜むものを書きとめた短文集『こども風土記』。「社会と人生とを周囲の書物の間から、覚えてゆくような路を開きたい」と願って書かれた『母の手毬歌』。文化残留の担い手としての子供たちを見つめる柳田の優しいまなざしが行間からほのぼのと感取される。(解説 益田勝実)》

 

 

 

 

 

 


辻邦生『嵯峨野明月記』辻邦生『嵯峨野明月記』中公文庫・1990年
《〈嵯峨本〉は、開版者角倉素庵の創意により、琳派の能書家本阿弥光悦と名高い絵師俵屋宗達の工夫が凝らされた、わが国の書巻史上燦然と輝く豪華本である。
十七世紀、豊臣氏の壊滅から徳川幕府が政権をかためる慶長・元和の時代。変転きわまりない戦国の世の対極として、永遠の美を求めて〈嵯峨本〉作成にかけた光悦・宗達・素庵の献身と情熱と執念。芸術の永遠性を描く、壮大な歴史長篇。》

 

 

 

 


五来重『善光寺まいり』五来重『善光寺まいり』平凡社・1988年
《年間600万人の参詣者を誇り、全国には同名を冠する200以上の寺を擁する善光寺。地方の一寺院が、このような広い信仰を集める謎の解明を通じて、日本人の宗教の本質をなす庶民信仰を明らかにする。》

 

 

 

 

 

 


ノサック『わかってるわ』ハンス・エーリヒ・ノサック『わかってるわ』河出書房新社・1977年
《瀕死の娼婦マリーのモノローグによって強烈に浮かびあがる暗い虚無の現実世界》

 

 

 

 

 

 

 

 


光瀬龍『あいつらの悲歌』光瀬龍『あいつらの悲歌』光文社・1981年
《“UFOは存在するのか!?”雑誌編集者矢上貢は、UFOに乗ったという老人の取材を命じられ内心ウンザリ。おまけに怪しげな老人の話は“宇宙人が地球を滅ぼす”という荒唐無稽さ。だが、そのころから各地で頻々と起き始めた酸欠死。現場には不思議な“地衣類”が発見され、遂にUFOの巨大な姿が眼前に! 光瀬SFの真骨頂!》

 

 

 

 

 

 


谷口智行『熊野概論―熊野、魂の系譜Ⅱ』谷口智行『熊野概論―熊野、魂の系譜Ⅱ』書肆アルス・2018年
《近代が作り上げた虚像を脱し、太古から培った日本人の自然観・感性・知性を描き出す。隠国熊野から掘り起こす根源の日本考。》(「BOOK」データベースより)

 

 

 

 

 

 

 


光瀬龍『かれら星雲より』光瀬龍『かれら星雲より』トクマ・ノベルズ・1981年
《太陽系宇宙に怪現象が!
 遭難した漂流船《ヘルモンティス5》を曳航中の遠航曳船《オリオン10》は奇妙な交信を傍受した。同じ頃、観測船《ラス・アルゲチ》も《ヘルモンティス5》を発見したというのだ。同じ宇宙船が二隻に!? 次席宙航士ハンは仲間のアブドリ、セイシと共に調査を開始する。その結果、一方の船は決定的な欠陥を持ち、実用にならないことが判明した。では誰が何の目的で……。
 その頃ハンの親友フサの乗る観測船《カサンドラ・プラス・ワン》でも異状が発生した。乗組員と同じ姿の偽物が現れたのだ!》

 

 

 


堤未果『日本が売られる』堤未果『日本が売られる』幻冬舎新書・2018年
《水と安全はタダ同然、医療と介護は世界トップ。そんな日本に今、とんでもない魔の手が伸びているのを知っているだろうか? 法律が次々と変えられ、米国や中国、EUなどのハゲタカどもが、我々の資産を買いあさっている。水や米、海や森や農地、国民皆保険に公教育に食の安全に個人情報など、日本が誇る貴重な資産に値札がつけられ、叩き売りされているのだ。マスコミが報道しない衝撃の舞台裏と反撃の戦略を、気鋭の国際ジャーナリストが、緻密な現場取材と膨大な資料をもとに暴き出す!》

 

 

 

 


加納一朗『ホック氏の異郷の冒険』加納一朗『ホック氏の異郷の冒険』角川文庫・1983年(日本推理作家協会賞)
《この原稿の内容は一つの犯罪譚であり、私の曾祖父・榎元信がひとりのイギリス人と協力して事件の解決に奔走する話である。これが“手記”であるか“小説”であるかは、読んだ方の判断に委せたいと思う。
――建てられてからもう80年以上は経っている私の家の蔵から、不思議なことが書かれた原稿が発見された。それには、明治新政府がようやくひとり歩きをはじめたころ、要人・陸奥宗光をまきこんだ機密漏洩事件とそれにまつわる殺人事件の解決に、謎のイギリス人“S・ホック”氏が深くかかわっていたらしいことが書かれていた。奇々怪々な事件の背後を問うまえに、いったい、このイギリス人は誰だったのか、いまだに謎のままである。傑作本格長編ミステリー。》

 


トロル『おしりたんてい』トロル『おしりたんてい』ポプラ社・2012年
《「フーム、においますね」
見た目も、推理もエクセレント! 涼しい顔して、真実に迫る、あたらしい名探偵の登場です。
こんどの 依頼は、おかしな おかしの事件。さっそく 現場に かけつける おしりたんていの前にかさなりあう 謎の数々。いったい、犯人はだれ?
おしりたんていと いっしょに、お話を読み進めながら、めいろや絵探しをして真実にせまる 謎解き絵本です。》

 

 

 


レ・ファニュ『ゴールデン・フライヤーズ奇談』J・S・レ・ファニュ『ゴールデン・フライヤーズ奇談』福武文庫・1990年
《ゴールデン・フライヤーズと呼ばれる美しい湖畔の村で起こった世にも奇径な事件。名門マーダイクス家とフェルトラム家の因縁めいた争いと悲劇的な結末。――『月長石』のウィルキー・コリンズとともに当代随一の人気作家であったレ・ファニュの幻の名作怪奇小説。本邦初訳。》

 

 

 

 

 


ウィンダム『呪われた村』ジョン・ウィンダム『呪われた村』ハヤカワ文庫・1978年
《9月26日、月曜日。ロンドンにほど近い小村ミドウィッチの夜は、常と変わりなく、静かに更けつつあった。だが10時17分、村のほぼ中央に、白く輝く円盤状の未確認飛行物体が着陸するや、これを中心とする半径一マイルの地域のあらゆる生物を眠らせてしまった。急遽出動した軍隊もなすすべを知らず24時間を過したころ、円盤はふたたび何処ともなく姿を消した。住民はすべて無事。村は何事もなかったかのようだったが、やがて……村に住むあらゆる受胎可能の女――17歳から45歳までの女性全員が、妊娠していたのだ! イギリスSF界の重鎮ウィンダムが描く戦慄と恐怖の異色作。》

 

 

赤川次郎『一日だけの殺し屋』赤川次郎『一日だけの殺し屋』角川文庫・1981年
《「もしもし、奴が来るんです。あの〈踊り屋〉が、今日の午後、羽田に…」
 〈踊り屋〉とはダンディーな一匹狼の殺し屋だ。警察にも、その〈踊り屋〉という通称以外のデーターは何一つ与えていない用心深い性格。しかしその彼も、自分が乗る筈の飛行機に、瓜二つの男性が乗っていたとは知る由もなかった。〈踊り屋〉を迎えに出た、些か頭のとろい〈ドン〉は、当然のように、そっくりさんの市野庄介をボスのもとに案内した。一介のサラリーマン庄介に「殺し」が依頼されたのだ!
 人まちがいが引き起すとんだ悲喜劇を描く表題作他、ユーモアミステリー7編を収録。》

収録作品=闇の足音/探偵物語/脱出順位/共同執筆/特別休日/高慢な死体/消えたフィルム/一日だけの殺し屋

 


四方田犬彦『リュミエールの閾―映画への漸進的欲望』四方田犬彦『リュミエールの閾―映画への漸進的欲望』朝日出版社・1980年
《この書物は私の第一冊目の映画論集で、一九七六年から四年のあいだに気紛れに書き続けたものに若干の加筆を与えて編まれた。日本のシネアストをめぐって書いた文章はゆえあって今回は除いた。》(「あとがき」より)

 

 

 

 

 

 

 

 


古井由吉『辻』古井由吉『辻』新潮文庫・2014年
《父と子。男と女。人は日々の営みのなかで、あるとき辻に差しかかる。静かに狂っていく父親の背を見て。諍いの仲裁に入って死した夫が。やがて産まれてくる子も、また――。日常に漂う性と業の果て、破綻へと至る際で、小説は神話を変奏する。生と死、自我と時空、あらゆる境を飛び越えて、古井文学がたどり着いた、ひとつの極点。濃密にして甘美な十二の連作短篇。》

収録句集=辻/風/役/割符/受胎/草原/暖かい髭/林の声/雪明かり/半日の花/白い軒/始まり

 

 

 


塚本邦雄『青霜百首―大伴道子秀歌鑑賞』塚本邦雄『青霜百首―大伴道子秀歌鑑賞』文化出版局・1986年
《大伴道子夫人の序数歌集9部から百首を精撰して、これに鑑賞の手引ともなるように短い解説文を添え、「青霜百首」と題した。「青」は生前夫人の愛された色相であり、また詩語とも思われる。すなわち歌集の小標題名にも「青露」「青炎」「群青」が『蕩漾の海』に見え、『真澄鏡』に至れば「青き無辺」まで極められている。それに何よりもまず、夫人の旧姓「青山」にちなみたいと願っての選択であった。また青は四方の中、東を象徴する色であり、朱夏・白秋・玄冬に対する常若の「青春」に他ならぬ。》(「BOOK」データベースより)

 

 


塚本邦雄『紺靑のわかれ』塚本邦雄『紺青のわかれ』中央公論社・1972年
《絢爛たる文体が綾なす呪われた”もの狂い”の諸相。ときには夕陽に鮮かな“孤独の宴”を恍惚と歌う――塚本邦雄最新小説集》

収録句集=蘭/月蝕/秋鶯囀/冥府燦爛/聖父哀傷図/紺青のわかれ/見よ眠れる船を/与邦国蚕は秋の贐/父さん鵞鳥嬉遊曲集/朝顔に我は飯食ふ男哉

 

 

 

 

 


井上光晴『荒廃の夏』井上光晴『荒廃の夏』集英社文庫・1980年
《死体処理を米軍に要請され精神錯乱に陥いる若い外科医。脱走した北朝鮮軍兵士をかくまう朝鮮人グループ。CICに逮捕される日共細胞の港湾労働者。特需景気を支える朝鮮戦争、軍事基地と化した佐世保港を背景に、緊迫した政治と革命の状況下にある五十年代日本の深部の荒廃を鮮やかな前衛的手法で剔出した長編。
           解説・橋川文三》

 

 

 

 

 


井上ひさし『東京セブンローズ(上)』井上ひさし『東京セブンローズ(上)』文春文庫・2002年
《戦局いよいよ見通しのない昭和二十年春。東京・根津の団扇屋主人の日記には意外なほど明るく、闊達な庶民の暮らしが細密に綴られる。物資も食糧も乏しい生活だからこそ笑いを求め、シャレを愛する戦時下の日本人。その姿は懐かしく、いとおしい。執筆じつに十七年。歳月と情熱をかたむけた井上文学の最高傑作、待望の文庫化。》

 

 

 

 

 

 


井上ひさし『東京セブンローズ(下)』井上ひさし『東京セブンローズ(下)』文春文庫・2002年
《敗戦後、信介は恐るべき陰謀を知る。占領軍が「忌むべき過去」を断ち切るべく、日本語のローマ字化を図っているのだ。戦時下の日本人を支えたのは国家ではなく、「国のことば」ではなかったか。未曾有の危機に七人の名花・東京セブンローズが立ち向かう。国敗れて国語あり。末長く読みつがれる名編、堂々の完結。》

 

 

 

 

 

 


シュー『さまよえるユダヤ人(上)』ウージェーヌ・シュー『さまよえるユダヤ人(上)』角川文庫・1951年
《かつてパリを沸騰させた新聞連載小説の世界的先駆。一八四四~一八四五年に連載され、新聞社の前には小説の筋の運びを待ちかねた愛読者の群れが押し寄せたという。五枚のメダルをめぐる雄大かつ複雑怪奇な波瀾万丈の物語。【全2冊】》

 

 

 

 

 

 


シュー『さまよえるユダヤ人(下)』ウージェーヌ・シュー『さまよえるユダヤ人(下)』角川文庫・1952年
《かつてパリを沸騰させた新聞連載小説の世界的先駆。一八四四~一八四五年に連載され、新聞社の前には小説の筋の運びを待ちかねた愛読者の群れが押し寄せたという。五枚のメダルをめぐる雄大かつ複雑怪奇な波瀾万丈の物語。【全2冊】》

 

 

 

 

 

 


シェリー『フランケンシュタイン』メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』創元推理文庫・1984年
《11月も雨のわびしい夜、消えかかる蠟燭の薄明かりの下でそれは誕生した。解剖室などから各器官を寄せ集め、つぎはぎされた身体。血管や筋のひとつひとつが透けて見える黄色い皮膚。そして、茶色くうるんだ目。若き天才科学者フランケンシュタインが生命の真理を窮めて創りあげたもの、それがこの見るもおぞましい怪物だったとは! 無生物に生を与える実験の、しかしあまりに醜悪な結果に、彼はこの生き物を見捨てて逃げ去るのだが……。いくたの映画やドラマ、小説等を通じ、あまりに有名な不朽の名作。》

 

 


井上光晴『辺境』井上光晴『辺境』集英社文庫・1977年
《弟の遺言どおり遺骨を海に撒く男。姿を消した夫を捜して海辺の墓地造成工事の飯場に往みつく女。荒涼とした風景のなかに広まる夫の自殺の噂。流浪のはてに深層の闇を裂いてひびいてくる男と女の旋律。〈辺境〉から怒りをこめて現代日本の傷痕を鋭くあばく表題作他「菅牟田私刑」等六編を収録。 解説・高野斗志美》

収録作品=辺境/木村二等水兵の家/電車/菅牟田私刑/象海岸のひとで/安らいの場所/蕩児の帰棟

 

 

 

 


永井豪原作/永井泰宇『真・デビルマン1―悪魔復活編』永井豪原作/永井泰宇『真・デビルマン1―悪魔復活編』ソノラマ文庫・1981年
《《明、太古の地球には先住人類デーモンがいた。彼等は異種生物と次々に合体することで強い力を身につけ、氷河期の万年氷の下でさえも生きのびた。そのデーモンが復活しはじめたのだ。明、我々の親はデーモンの謎を解くために、悪魔に肉体を売り渡して死んだ。そして、我々にデーモンと闘うたった一つの方法を残してくれたのだ》
 飛鳥了の言葉に聞き入る不動明の胸に、懐かしい面影がよぎる。美樹! 許してくれ。俺はもう引き返すことができない。俺は、君の知っている不動明ではなくなるのだ。親父たちの残した恐怖の遺産を受けて、了とともに地獄へ堕ちるのだ……。
 永井豪の不朽の名作漫画をもとに、新たに想を加えて書き下ろす「真・デビルマン」第1巻・悪魔復活編!》

 


永井豪原作/永井泰宇『真・デビルマン2―魔獣血闘編』永井豪原作/永井泰宇『真・デビルマン2―魔獣血闘編』ソノラマ文庫・1981年
《デーモンの中でも無敵と言われた勇者アモンと合体した悪魔人間明にデーモンの意識が甦る。かつてアモンが死力を尽くして闘い屠り去ってきたデーモンたちの憎悪の思念が、抑えきれぬ闘争本能が、明を揺すぶり責めたてる。しかもデーモンの魔手は美樹に、牧村家の人々に伸びてくる。デビルマンとしての明の苦悩が今、始まったのだ。
 そんな明を遙か高空から密かに狙う影があった。その名は招魔の妖鳥シレーヌ。復讐のために美しかった肉体をも捨ててひたすらアモンを追い続けてきたシレーヌの、憎悪の一撃が明を襲う。峻険な山野を舞台に、デビルマンとシレーヌの凄絶な闘いの幕が切って落とされた! ――好評《真・デビルマン》シリーズ第2弾・魔獣血闘編!》

 


永井豪原作/永井泰宇『真・デビルマン3―魔王決戦編』永井豪原作/永井泰宇『真・デビルマン3―魔王決戦編』ソノラマ文庫・1981年
《デーモンは、ついに総攻撃を開始した。双頭一身の悪魔王ルシフェルとディーテがその姿を現し、自ら人類に宣戦布告したのだ。デーモンの無差別合体攻撃、続いて襲いかかった想像を絶する姿形のデーモン軍団が、人々を恐怖と死と混乱の坩堝へたたき込んだ。
 “デーモンに対して人類の兵器では太刀打ちできない。この日のためにおれは、人間であることを捨て、悪魔の肉体を手に入れたのだ”。了の制止をふりきって、ひとり死を賭してデーモン軍団と対決するデビルマン明。しかし、破滅の引き金は人類の内部に潜んでいた。一発のICBMが米本土から放たれ、一直線にソビエト目指して飛んで行く――。壮大なスケールで展開する《真・デビルマン》シリーズ第3弾・魔王血戦編!》

 


永井豪原作/永井泰宇『真・デビルマン4―逢魔偈呑編』永井豪原作/永井泰宇『真・デビルマン4―逢魔偈呑編』ソノラマ文庫・1981年
《デーモン軍団の攻撃で廃墟と化した都市に、人類の狂気だけが燃えさかっていた。悪魔の正体は人間自身である――雷沼教授の誤った指摘は致命的なものだった。人が人を信じず、人が人を狩る時、人類の前にあるのは急速な自滅への道だけだった。猛威をふるう悪魔特捜隊に対抗してデビルマン軍団の結成を急ぐ明は、了の裏切りによって人々の憎悪の対象となっても、なお、人間・不動明であろうとした。愛する美樹のいるかぎり。だがその美樹も無残に殺された。絶望の咆哮をあげるデビルマン明は、この時、人類と訣別して真にデビルマンとなった。そして残されたものは、デーモンに対する、大魔神サターンに対する灼熱した怒りだけであった。――好評シリーズ《真・デビルマン》全4巻、堂々の完結!》

 


長野まゆみ『テレヴィジョン・シティ(上)』長野まゆみ『テレヴィジョン・シティ(上)』河出文庫・1996年
《パパとママが住むという《碧い惑星》を信じ、ビルディングからの脱出を夢みるアナナス人。美しいすみれ色の睛をもつ同室の少年イーイーは何者なのか? ビルディングの出口をもとめ、広大な迷路をひた走る二人が見たものは?》

 

 

 

 

 

 


長野まゆみ『テレヴィジョン・シティ(下)』長野まゆみ『テレヴィジョン・シティ(下)』河出文庫・1996年
《身体機能が衰えてゆくイーイー。崩壊へ突き進むビルディング。碧い星は本当にあるのか。ボディを離れたスピリットに《帰還》の場所はあるのか? 二人は果たして脱出できるのか? 壮大なスケールで描く巨篇・待望の文庫化!》

 

 

 

 

 


赤川次郎『死者の学園祭』赤川次郎『死者の学園祭』角川文庫・1983年
《三人の女子高生は狂喜した。好奇心と冒険心の強い年頃の彼女達にとって、立入禁止の教室を黙って探検するのはたとえようもないスリルなのだ。だが、彼女達は気づかなかった。彼女達の背後の冷酷な視線に……。そして、一人一人彼女達はこの世から姿を消した―。
 学園に忍びよる恐怖の影! 「絵と宝石」に隠された謎とは?
 可愛らしく好奇心の旺盛な17歳の名探偵真知子を主人公に、学園の友情、愛、青春を描くサスペンスミステリー。》

 

 


赤川次郎『プロメテウスの乙女』赤川次郎『プロメテウスの乙女』角川文庫・1984年
《19XX年、日本は急速に右傾化の方向を辿り始めた。武器輸出解禁、秘密警察によるスパイ狩、徴兵制の準備等、声なき声は圧殺され、軍国主義一色となった。さらに時の総理滝の肝入りで、国を愛するうら若き乙女の軍団が組織され、庶民に対する弾圧粛清は厳しいものとなった。戒厳令下、反対勢力は、体内に爆弾を埋めた3人の女性テロリストを滝首相の許へ派遣するが……。来るべき時代の恐怖を描く、近未来サスペンス小説の傑作。》

 

 

 

 


井上光晴『書かれざる一章』井上光晴『書かれざる一章』集英社文庫・1978年
《これは民衆と人間の解放であるべき革命運動の内部の矛盾を、見て見ぬふりをしている人間にむけて書かれた一章である。現実との生きた接点を失い官僚化する組織のなかで、革命への純粋な情熱にもえる主人公は、個人と家族の生活が解体する危機に直面し苦闘する。「政治と文学」に新しい次元を拓いた表題作他四篇収録。
           解説・佐木隆三》

収録作品=書かれざる一章/病める部分/重いS港/長靴島/トロッコと海鳥

 

 

 


ライバー『ビッグ・タイム』フリッツ・ライバー『ビッグ・タイム』サンリオSF文庫・1978年(ヒューゴー賞)
《この宇宙の時間と空間、生と死の彼方で改良戦争(チェンジ・ウオー)と呼ばれる果てしない暗闘がつづけられている。この過去と未来が混在する大いなる時間(ビッグ・タイム)のなかで、あらゆる場所が融合した場所(プレイス)で、スパイダー軍とスネーク軍が戦うこの宇宙戦争に窮極の勝利などはない。この見えない闘いそのものがわれわれの宇宙の歴史の原動力なのだ。スパイダー軍のグレタは、この戦いに傷ついた戦士たちをなぐさめるエンターテイナーと呼ばれる看護婦である。死から再生された戦士たち……月世界人と半人半獣が原子爆弾の函を《場所》に侍ちこんだ。それをめぐる味方同志の対立、そして《場所》を制御するメインテナーの消失、やがて《場所》は漂流し、原子爆弾の爆発まで30分と迫る。宇宙戦争にとって平和とは? 真実の現在とは? 過去の改良は、未来をどう形成するか? 饒舌で眩惑的な文体を駆使し、壮大な歴史観を展開するプラスチック・タイム・オペラの傑作! 1958年度ヒューゴー賞受賞。》

 


筒井広志『オレの愛するアタシ』筒井広志『オレの愛するアタシ』新潮社・1982年
《32歳の売れっ子作家(♂)と、24歳の美貌の作詞家(♀)二人の身体が、ある日突然、なぜか入れ換わってしまった。
お化粧の仕方は?下着のつけ方は? トイレの使い方は? そして、周囲に悟られずに生活を続ける方法は? ハチャメチャなやりとりに始まり、めでたき結婚、感動的な出産にいたるまでの、コミカルで、ちょっぴりポルノチックな、センチメンタル純情ストーリー。》

 

 

 

 


小林久三『黒衣の映画祭』小林久三『黒衣の映画祭』講談社文庫・1978年
《映画人の夢であるニューヨーク映画祭への出品。その権利を賭けて二人の気鋭監督が競い、独立プロを持つ名島が勝利を得た。敗れた立木とは極西映画の同期生だった。映画祭開幕間近か、名島は突如ニューヨークから消えた。そして同じ頃、日本では立木が殺されていた! 著者得意の分野でトリックを築く意欲的長篇。》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【十五句抄出】丹治美佐子句集『空のつづき』

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丹治美佐子『句集 空のつづき』2019年7月
ふらんす堂


 『空のつづき』は丹治美佐子(1956 - )の第1句集。帯文:藤田直子。

 著者は「未来図」「秋麗」同人。

 


風描くやうに盛られて夏料理


山茶花や裁断さるる企画案


社内秘の書類引き継ぎ冬の月


ゼブラゾーン枯葉とともに走りけり


すみずみに雑巾かけて星祭


冬ごもり動物園を折紙で


春の暮つくり置きする鯛田麩


炎天や過ぎゆく貨車の棺めく


水飲んで手足明るき今朝の秋


散りやすき塔の水影秋の蝶


プレパラートぱりんと割れて冬の蝶


綾子忌の揉んで馴染ます鼻緒かな


女正月煮卵の黄身しつとりと


西日射す急階段の下宿かな


アフリカのまろき地平や鳥渡る

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】鈴木牛後句集『にれかめる』

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鈴木牛後『句集 にれかめる』2019年8月
角川書店


 『にれかめる』は鈴木牛後(1956 - )の第3句集。序句:黒田杏子。

 著者は「藍生」「雪華」会員。

 


羊水ごと仔牛どるんと生れて春


牧牛の口へ口へと夏の草


芋虫の透けし腸ごと伸びて縮む


飼ひ猫と言へぬでもなく芒原


農機具の錆びゆくことも秋の色


風邪心地わが外側に誰かゐる


餌を食ふ音わんわんと雪の牛舎


家畜車に三十の眼のかぎろへる


蟻の道蛇の昏さを越えゆける


べつたらと牛が寝てゐる去年今年


雪掘つてみれば淫らに土の膚


干草の深さを猫の眠りけり


牛の乳みな揺れてゐる芒かな


ちやりぢやりとタイヤチェーンの鳴る初荷


牛死せり片眼は蒲公英に触れて

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】中島憲武『祝日たちのために』

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中島憲武『祝日たちのために』2019年7月
港の人


 『祝日たちのために』は中島憲武(1960 - )の句集。著者による銅版画13点と散文も収録。

 著者は「炎環」「豆の木」所属。

 


叱られぬ娘さくらへ流さるる


青嵐表象さるるあらゆる不在


蝉の眼の溶暗平和な世界が無い


あをく泳いで具象画のやうな疲れ


断崖立秋その突端にいつまでゐる


ひとの手の葉月ものいふ鳥を載せ


八月が終る砂粒軋む敷居


秋はひとり寒冷紗手のなかに丸め


夜の自習は亀甲のかたちして霙る


品川の底冷粗品知る暮らし


寄居虫のあるいて風の白い上着


はじめしづかな法案いそぎんちやくひらく


晩春へ落とす不可視のむかしの箸


晩夏晩年水のまはりの水死の木


葛湯吹いて馬の体躯の夜がある

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 


【十五句抄出】大石久美句集『桐の花』

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大石久美『句集 桐の花』2019年8月
邑書林


 『桐の花』は大石久美(1947 - )の第1句集。序文:茨木和生。

 著者は「運河」同人。

 

 

初恋の人は校長アマリリス


毒茸象の糞より生え来たる


洗面器掻く売れ残る沢蟹が


漆喰の壁の厚さよ手鞠歌


滝仰ぐための昇降機に乗れり


御岳も槍も雲上花芒


刃物研来てゐる祇園年の暮


青草に拭ふ泡吹虫に触れ


カルデラの中行く登山電車かな


雨の降りゐるを気付かず薬喰


井戸水の豊かに湧きて鳥の恋


小春日の教室を山羊覗きけり


探梅のひとり飛ぶ雲ばかり見て


散髪を忘れず終戦日の父は


枯山の麓より来る人の声

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】嶺岸さとし句集『天地』

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嶺岸さとし『句集 天地』2019年8月
文學の森


 『天地』は嶺岸さとし(1949 - )の第1句集。序文:中村孝史。

 著者は「海原」同人。

 

孫が去り子去り飯舘木守柿


雪掻きや左右に別れゆく父子


蚕豆や筋肉というナルシシズム


朝時雨僧並ぶごとキウイフルーツ


男性看護師(ナースマン)天使と呼ばる石蕗の花


天空に紺の引力草の絮


初詣ホモサピエンスの後頭部


父の背は最初の他人蛇の衣


避難児の空席ひとつ冬日差す


映えるとは言わず春野の汚染土嚢


大根引折り残して子捨てたよう


明るく逝くための哲学冬青草


購えぬもの確とあり初山河


鳥帰るふくふくとセシウムを溜め


山笑う底の日溜まり婆ふたり

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】佐々木よし子句集『すてん晴』

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佐々木よし子『句集 すてん晴』2019年7月
ふらんす堂


 『すてん晴』は佐々木よし子(1941 - )の第1句集。序文:能村研三。

 著者は「沖」同人。

 

 

地底より泡が泡追ふ噴井かな


数へ日の鋏の音も寺領かな


さよならのまだ揺れてゐる半仙戯


いもうとを連れて兄来る魂迎


霜柱踏んでひかりぬイヤリング


能面の片頬白む春の雷


落椿太平洋にさらはれし 


春深し溜りのにじむ仕込桶


川涸れて石百態の日の温み


寝息聴くことも看取りや去年今年


土手下りてくる自転車の氷菓売


秋初めさらりとインド綿のシャツ


イベントのテントをたたむ月明かり


ふる里の闇は大きな蛍籠


江ノ電は光の小筐春近し

 

 

 


※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】水内慶太句集『水の器』

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水内慶太『句集 水の器』2019年6月
本阿弥書店


 『水の器』は水内慶太(1943 - )の第2句集。

 著者は「月の匣」主宰、「銀化」同人。

 


ひたすらに砂漠を蟻が影運ぶ


風にはや雪の香(かざ)ありきりたんぽ


朝顔や鏡は眠り許されず


馬肥ゆる野の果てに母葬る日も


軍艦を見送る中の黒日傘


   富士山
木や岩の耐へゐるかたち山開


西塔に東塔の影つばくら

   小石川後楽園 二句 より
脳(なづき)より重たき図鑑拡げ夏


秋しぐれ多層民家の灯を濡らす


こころざしはるかになまこむつみゐる


こがらしや星斗は光したたらす


黒薔薇やギリシャ神話の畏ろしき


木流しの水尖り合ひ光りあひ


草の実や地層に積もる火の記憶


破れ樋氷柱を吐いてをりにけり

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

【十五句抄出】行方克巳句集『晩緑』

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行方克巳『句集 晩緑』2019年8月
朔出版


 『晩緑』は行方克巳(1944 - )の第8句集。

 著者は「知音」代表。

 

空蝉に象が入つてゆくところ


秋風や野ざらしが口きけば父


サングラスはづせば只の秋の暮


鷹の眼のたれも拒まず何も止(とど)めず


踏切がへだつ成人式の二人


行春や輪ゴムのごとく劣化して


六月の花嫁(ジューンブライド)笑へといへば笑ひけり


炎昼のゴリラその一その二その三はわれ


考へるひとのかたちの溽暑かな


東京は住みよき荒地野菊かな


尋ね当てたれば障子を貼つてをる


木枯一号新宿の目が涙ぐむ


餅代といふボーナスのありしころ


初暦掛けて錆釘ゆるびなき


鈴ちりちり鳴らしてうかれ猫となる

 

 

 

※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。

 

 

 

 

 

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